【People】  Vol.3　空手選手 岩口紗藍さん

空手選手
岩口紗藍さん　
中京大学附属中京高等学校２年

『W杯』制し、戦う相手は自分自身

11月23日、国立代々木競技場体育館で開催された『IBKO極真ワールドカップ空手道選手権大会』の成人一般女子55kg未満のクラスにおいて優勝を果たし、今や無敵の空手最強女子となった岩口紗藍さん（中京大学付属中京高校２）。５歳から始めた空手道のこれまでを振り返り、この先を見据えて話を聞いた。

ひたすらミットを蹴りつけた少女時代

紗藍さんを初めて取材したのは2016年の秋。本ウェブサイトの前身「タウンニュースてんぱく」の表紙インタビューだった。当時小３の紗藍さんは、「第10回JKJO全日本ジュニア空手道選手権大会」の出場を前に、闘志を内に秘めた鋭いまなざしでバシッ、バシッ、とひたすらミットを蹴りつけていた。「なぜ、そこまでやるの？」と聞けば、厳しい表情で「強くなりたい」と、ひと言。予選会を勝ち抜き、初めて同大会への出場権を獲得して緊張感もあったのだろう。しかし、練習が終わればあどけない少女の顔になり、道着の右肩に初めて付けた「ALL-JAPAN」のワッペンをうれしそうに見せてくれたことを覚えている。

あれから８年が過ぎ、その間に全日本やワールドカップなど数々の大会を制し、道着の右肩もずいぶんぎやかになった。植田中から中京大学付属中京高等学校へ進み、現在は父親が代表を務める「日本空手道連盟 清凛館」の本部道場＝天白区中平＝を拠点に、日々練習に励んでいる。

一般女子のスター選手破り『W杯』制す

11月23日に国立代々木競技場体育館で開催された「IBKO極真ワールドカップ空手道選手権大会」では成人一般女子55kg以下で優勝し、世界の強豪たちや日本のトップクラスの選手たちをあっと言わせた。本来、紗藍さんは高校生18歳以下のクラスで戦うのだが、これまでの戦績を評価され特別に一般のクラスへの出場が認められたのだ。紗藍さんは大会を振り返り、「今回は高校生が出場するアンダー18のクラスではなく、成人の一般女子のクラスで優勝できたこと、また準決勝では自分より一世代上のスター選手と戦って勝つことができ、本当にうれしいです」と満面の笑みで喜びを語る。

紗藍さんの強みはパンチ力とスタミナ。それに加え、「試合の早い段階で相手のタイプを見抜き、その相手によって戦い方を決めていくことが器用にできる。相手にしてみれば、その時その時で戦い方を変えてくるのでやりにくいでしょうね」と言うのは父親で指導者の岩口剛人さん。格闘技も技術だけでなく考察力が大事な要素と言えるのだろう。

このW杯を制し、事実上フルコンタクト空手界「無敵の最強女子」となり、成人にも肩を並べる選手がいなくなった今、悩みはモチベーションを保ち続けることだ。この先、自分を追ってくる選手もいる中で、チャンピオンは常に受けて立つ気持ちと体を整えておかなければならない。そんな中、スポーツの種目は異なるが、一流のアスリートたちが多く在籍する高校に通っていることは紗藍さんにとっても心強い。「話も共感できることが多いのでありがたいです」と言う。
「でも他のスポーツ選手たちは、オリンピックという大きな目標を持つことができるので、うらやましいと思うこともあります。空手も世界にたくさんの選手がいるので、オリンピックの正式種目となって、私もオリンピックに出場しぜひ金メダルを取りたいです」と思いの丈を打ち明ける。

後輩たちのサポートにも力を注ぐ

これまでの選手生活を振り返り、「家族や周りの人たちのたくさんの応援やサポートのおかげでここまで来ることができました」と感謝し、「これからは選手としてだけでなく指導者としても頑張っている後輩たちのサポートをしていきたい。そのためにも、後輩たちから憧れてもらえるような選手、人でありたいと思います」と力強く語る。

12月21日にエディオンアリーナ大阪で開催された日本最大級の空手の祭典「正道会館全日本空手道選手権大会（adidas KARATE GRANDPRIX」においても、一般女子50kg以下の部で優勝を果たした紗藍さん。同大会主催者で解説者の石井和義館長から「岩口選手は考えながら戦っている。攻撃がダイナミック」と高い評価を得た。
「もう戦う相手は自分しかいない」。
紗藍さんは今日も自分自身と真摯に向き合い、練習にいそしむ。

  ◆日本空手道連盟 清凛館  天白本部道場
　　名古屋市天白区中平1-901
【HP】http://www.seirinkan-karate.com/index.html

Text ／Chitose Murase
撮影／三澤 哲也
写真提供／日本空手道連盟 清凛館
Special Thanks／Yuma Kido